1.溶射皮膜と硬質クロムめっきの耐摩耗性、耐食・防食性の比較と評価
2.ボール・オン・プレート往復式摩耗試験機による耐摩耗性皮膜の比較と評価
3.塩水噴霧試験による耐摩耗性皮膜の耐食・防食の比較と評価
4.溶射皮膜と硬質クロムめっきの耐摩耗性の比較と評価
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3.塩水噴霧試験による耐摩耗性皮膜の耐食・防食の比較と評価
(有明工業高等専門学校・物質工学科)

2 実験結果と考察
塩水噴霧試験の皮膜表面の目視評価結果を表2、皮膜の表面状態を図4及び1,000時間後の皮膜断面の電子顕微鏡写真を図5に示す。なお、基材は全て炭素鋼を用いた。これらの結果より各皮膜の「耐食性」及び「基材に対する防食性」を以下に考察する。

表2 塩水噴霧試験後の皮膜表面の目視評価結果
皮膜 試験前
(0日)
24時間
(1日)
48時間
(2日)
96時間
(4日)
168時間
(7日)
360時間
(15日)
672時間
(28日)
[1] WC/CoCr
(HVOF)
光沢がある銀白色 僅かに茶色に変色 同左 茶色が濃くなる 僅かに亀の甲模様を呈す 同左 同左
[2] WC/Cr3C2/Ni
(HVOF)
光沢があ る銀白色 同左 同左 同左 同左 同左 同左
[3] グレーアルミナ
(APS)
やや光沢がある深青色 光沢を失うが発錆は無い やや黒色となるが発錆は無い 同左 同左 同左 同左
[4] クロミア
(APS)
やや光沢  
がある   
黒色    
光沢を失 うが発錆は無い 同左 同左 同左 同左 同左
[5]

ハステロイC 276
(HVOF)

光沢がある銀白色 同左 同左 同左 同左 同左  同左
(3枚の内1枚に点錆)
[6] 硬質クロム めっき
(サージェント浴)
光沢がある銀白色 基材からの点錆が20ケ所発生 基材からの点錆が25ケ所に増加 点錆からの錆汁が増加 約半面に錆が観察される ほぼ全面に錆が観察される 全面で錆が増加

[1] WC/CoCr(HVOF)溶射皮膜 (樹脂による封孔処理を実施)
塩水噴霧試験7日目以降、皮膜表面に亀の甲模様が僅かに観察されるが、基材である炭素鋼の腐食生成物は認められない。また、皮膜断面は極めて緻密になっており、気孔もほとんど認められず、基材の腐食はまったく認められない。したがって、塩水噴霧試験における本皮膜の「耐食性」は僅かに劣るが、「基材に対する防食性」はかなり高いと評価される。   なお、気孔はほとんど認められないことから、樹脂による封孔処理の効果がどの程度であったかは推測できない。
[2] WC/Cr3C2/Ni(HVOF)溶射皮膜 (樹脂による封孔処理を実施)
塩水噴霧試験28日(672時間)後においても、皮膜表面は初期の光沢を保持しており、基材である炭素鋼の腐食生成物は認められない。また、皮膜断面は極めて緻密になっており、気孔もほとんど認められず、基材の腐食はまったく認められない。したがって、塩水噴霧試験における本皮膜の「耐食性」は極めて高く、「基材に対する防食性」も極めて高いと評価される。
なお、気孔はほとんど認められないことから、樹脂による封孔処理の効果がどの程度であったかは推測できない。
[3] グレーアルミナ(APS)溶射皮膜 (樹脂による封孔処理を実施)
塩水噴霧試験1日目以降、皮膜表面の光沢は失われ、やや黒色に変化するが、基材である炭素鋼の腐食生成物は認められない。また、皮膜断面にも基材の腐食は認められないが、多数の小さな気孔が観察される。これより、本皮膜断面写真からは観察できないが、皮膜表面から基材に貫通する気孔の存在が推測される。しかし、樹脂による封孔処理の効果で基材の腐食は発生しなかったと推測される。したがって、塩水噴霧試験における本皮膜の「耐食性」は高く、「基材に対する防食性」も高いと評価される。
[4] クロミア(APS)溶射皮膜 (樹脂による封孔処理を実施)  
塩水噴霧試験1日目(24 時間)以降、皮膜表面の光沢は失われるが、基材である炭素鋼の腐食生成物は認められない。また、皮膜断面にも基材の腐食は認められないが、多数の小さな気孔が観察される。これより、本皮膜断面写真からは観察できないが、皮膜表面から基材に貫通する気孔の存在が推測される。しかし、樹脂による封孔処理の効果で基材の腐食は発生しなかったと推測される。したがって、塩水噴霧試験における本皮膜の「耐食性」は高く、「基材に対する防食性」も高いと評価される。
[5] ハステロイC 276(HVOF) 溶射皮膜 (樹脂による封孔処理を実施)
塩水噴霧試験28日(672時間)後においても、皮膜表面は初期の光沢を保持していたが、樹脂による封孔処理をしたにもかかわらず、3枚の試験片の中の1枚に基材である炭素鋼の腐食生成物が点状に認められる。さらに、皮膜断面はかなり緻密になっているが、僅かに気孔や扁平していない粒子が認められる。これより、本皮膜断面写真からは観察できないが、皮膜表面から基材に貫通する気孔が存在することが推測される。したがって、塩水噴霧試験における本皮膜の「耐食性」は極めて高いが、「基材に対する防食性」はやや低いと評価される。
[6] 硬質クロムめっき(サージェント浴)
塩水噴霧試験1日目から、皮膜表面に基材である炭素鋼の腐食生成物が点状に認められ、試験の経過にしたがってその量は増加し、15日後には全面に広がっている。さらに、皮膜断面には表面から基材に貫通する気孔が存在し、基材の腐食が認められる。しかし、皮膜自体の腐食はあまり認められない。したがって、塩水噴霧試験における本皮膜の「耐食性」は高いが、「基材に対する防食性」はかなり低いと評価される。


→(1)実験方法
→(2)実験結果と考察
→(3)結言