1.溶射皮膜と硬質クロムめっきの耐摩耗性、耐食・防食性の比較と評価
2.ボール・オン・プレート往復式摩耗試験機による耐摩耗性皮膜の比較と評価
3.塩水噴霧試験による耐摩耗性皮膜の耐食・防食の比較と評価
4.溶射皮膜と硬質クロムめっきの耐摩耗性の比較と評価
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2.ボール・オン・プレート往復式摩耗試験機による耐摩耗性皮膜の比較と評価
(足利工業大学・機械工学科)

実験方法
試験装置として、図1に示したボール・オン・プレート往復式摩耗試験機を用いた。試験片は、溶射皮膜のWC/CoCr、WC/Cr3C2/Ni、ハステロイC276皮膜は高速フレーム溶射法(HVOF)、グレーアルミナ、クロミア皮膜は大気プラズマ溶射法(APS)、硬質クロムめっきは電気めっき法(サージェント浴)である。相手材には9.525mmの鋼球と窒化けい素球(Si3N4ボール)を用い、摺動速度0.042m/s、荷重10Nに設定し、摩耗距離10,000mとした。摩耗試験前および摩耗試験中に試験片と相手材をアセトンによる表面の洗浄を行ったのち重量測定し、試験開始時に摩擦係数を測定した。また、拡大鏡による表面観察を試験前、試験後に行った。試験片と相手材に発生するヘルツ接触面圧の理論値は1.0GPaであった。

一方、各試験片皮膜の硬さを調べるため、マイクロビッカース硬さ試験も行った。

2 実験結果及び考察
ボール・オン・プレート往復式摩耗試験の摩耗距離と摩耗量の関係を図2に示す。相手材が鋼球の場合、硬質クロムめっき材の耐摩耗性は優れており、10,000mの試験後にもほとんど摩耗していない。しかし、実際には、相手材である鋼球の表面が摩耗してその摩耗粉が硬質クロムめっき表面にかなり付着しており、このため重量の減少がなかったのであろう。

溶射皮膜で硬質クロムめっきに匹敵するのは、WC/CoCrである。試験後の表面を拡大鏡観察すると、WC系の二つの皮膜には、相手材の付着は認められなかった。硬質クロムめっき材は摩耗距離が5,000mと8,000mで減量していることを考えると、硬質クロムめっき材よりもWC/CoCrのほうのが、実際には高い耐摩耗性がある可能性が高い。

酸化物系セラミックスであるグレーアルミナとクロミアの摩耗量はWC系皮膜よりも多かった。これはクロミアの硬さがWC /Cr3C2/Niよりも高いが、やはり、酸化物であるための皮膜の粒子間結合力が小さいためであろう。

本来は耐食材料として使用されるハステロイC276については摩耗量が、約2桁多い結果であった。 次に相手材として用いられた鋼球の摩耗については、硬質クロムめっきは鋼球を著しく摩耗させた。

相手材が窒化けい素球の場合、硬質クロムめっき材の摩耗挙動は、相手材が鋼球の場合と著しく異なる。硬質クロムめっき材の摩耗量は二つのWC系皮膜、二つの酸化物セラミックス系皮膜より1桁多く、ハステロイC276よりやや少ない程度であった。一方、最も摩耗量が少なかったのは、二つのWC系皮膜である。

相手材である窒化けい素球を最も摩耗させたのは、グレーアルミナであったが、その次に摩耗させたのは硬質クロムめっき皮膜であった。

各試験片の摩擦係数は、相手材が鋼球、窒化けい素球とも0.4〜0.8を示した。

相手材が窒化けい素球のとき、比較的摩耗が少ないWC系皮膜、グレーアルミナ、クロミアの4つは、表面が白く、なめらかになっていた。一方、硬質クロムめっき、ハステロイC276の摩耗が大きかった試験片の表面は、大きなスクラッチ状の摩耗が認められた。それらの状態を図3に示す。 また、表1にビッカース硬さ試験結果を示した。

表1:ビッカース硬さ試験結果
皮膜 ビッカース硬さ
(HV 0.1)
[1] WC/CoCr 1322
[2] WC/Cr3C2/Ni 1095
[3] グレイアルミナ 560
[4] クロミア 1155
[5] ハステロイC276 471
[6] 硬質クロムめっき 839

鋼球 808
窒化けい素球 1361


3 結言

[1] 相手材が鋼球の場合、最も摩耗量が少なかったのは硬質クロムめっきだが、WC/CoCrも硬質クロムめっき以上の耐摩耗性があるといえる。
[2] 相手材が窒化けい素球の場合、硬質クロムめっきは耐摩耗性が低く、WC/Cr3C2/Niが最も耐摩耗性に優れている。
[3] WC系溶射皮膜は硬質クロムめっきに代替することが可能である。
(2003年5月戸部省吾)